カテゴリ:投稿詩( 7 )

痛い絵

診療所の待合室の壁に掛けられてあった一枚の絵
六畳ほどの待合室
丸い時計の横にその絵はあった

今ごろになって気が付いたが
あの絵は有名な影絵作家さんの絵で
痛いと感じたのは鋭いナイフで切り取られた指先だった
それが診療所の待合室の壁にあったことが
名前を呼ばれるまでの重たいツンとした感情と結びついている

看護婦さんの足音が近づいて
名前を呼ばれると
先生の前に座って聴診器でお腹を聞かれる

丸い眼鏡をかけた大柄な先生は
小さな目でワタシの顔を見る
この瞬間に見抜かれる
朝 学校に行きたくなくて
頭が痛いと仮病をつかったことが
先生にはわかるのだ

それでも先生は何も言わない
注射をするか とぽつんと言って
看護婦さんが左腕を冷たい綿でこすり始める

アルコールのツンとした臭いと
次にやってくる注射のチクリとした痛みと
待合室のとんがった指先の痛い絵と
それらがみごとに融合してしまう

うまく言えないことであるが
そのときのツンとした感情が
長い間に積み重なってしまって
心の襞に染み付いているのだ

嘘をついているということの
後ろめたさが
別の意味で痛みをつれてくる

遥か昔のことではあるが
ふとしたときに
ツンとしたアルコールの臭いと
壁に掛かってあった痛い絵と
優しい先生の荒々しい注射のチクリとした痛み
それらがごっちゃになって
深い虚しさを覚える

大人には通じないもの
子供だからこそ痛かったもの
思い出すとじんわりと涙がこぼれそうになる

そのまま おっきくなってしまったか
と思えるほど仮病を使いたくなることがある
けれど診療所の先生はずっとまえに亡くなったし
ワタシはかなり大人の類に属してしまっていて
なんでもないふりをして
仕事に出かけるのだ

あのとんがった痛い絵を
街の本屋さんで見つけたが
手に取ることはしなかった

-----------------------------------
2007-02-21  某所投稿済み・・・草
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2009-08-17 22:23 | 投稿詩

足が遅いので

いくつもの理不尽な現実から
逃げようとして
逃げ遅れてしまったようだ

そうだ
昔から足が遅いので
鬼ごっこだって
缶けりだって
すぐにつかまってしまって
泣きべそをかいていた
かくれんぼだけは得意で
誰にも見つからなくて
納屋の牧草の中で眠ってしまっていた
気が付けば
誰もいなくなっていた

いくつもの理不尽な現実は
大人になればなるほど
厳しくなって
足が遅いので
まとわりつくものすべてに
とっつかまって
一生懸命にもがくものだから
あり地獄のそれのように
深みにはまってゆくばかりで
這い上がることも忘れてしまう
いつのまにか
そこが居心地の良い場所になって
理不尽さに腹をたてていたことさえも
思い出せなくなる

そのことが
どれほどに怖いことかを
知らなければならない
足が遅いので
早めに知らなければならない
そう 誰かに言われた

やがて

いくつかの理不尽な現実は
退化してゆく脳のように
怒りを忘れ
しらけた若者がはびこる場所へと
人をいざなってゆく

モノクロの画面のなかから
学生運動が流されていた時代を
モノクロの画面のなかの
流血の様をみていた
ヘルメット 角材 火炎瓶
そう 確かに見ていた

しかし 今の時代に
私というものは
何をしているのだろう
何ができるのだろう
何をすればいいのだろう
そう もがいているだけなのだ

想像している
過去から今の時代は
今から過去へと戻るのだということを
しかし 私というものは
若くなるわけではない
時代が過去に戻るごとに
老いてゆくだけなのだ

モノクロの画面の
様々な暗い怒りの時代に
年老いている
そのことを想像してしまう

もはや
鬼ごっこや缶けりをしている
子どもではないのだ
杖をついて
自らの身体を支えるだけの
弱い老人となり
それでも
崩れゆく時代を目の当たりにしながら
私というものは
何をしているのだろう
何ができるのだろう
何をすればいいのだろう
そう もがいているだけなのだ

足が遅いので
と いいわけしながら


-------------------------------------
* 2006.4.15 某所投稿済み・・・草

こんなに長いものをよくも書いたものだ
今更ながら読むのに疲れる
だから読まないほうがいいと思う

ということを最後に書くな!
と言われそうだけど
それもそうだなと思う
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2009-02-20 21:57 | 投稿詩

暮れる

少し離れたベンチに
座る老夫婦
ふたりの会話が
途切れ途切れに聞こえてくる

  秋がしぼんでゆきますね

秋がしぼんでゆくって
どんな感じ
シューって
風船がしぼむ感じ
しぼんだ秋は
空に舞い上がってしまう

スケッチブックのはじっこに
秋がしぼむ と書き込み
さっきから進まない風景画に
大きなため息をぶつける

秋がしぼむ
シュシュッとしぼむ
ゆっくりしぼんで
秋がおしまいになって
しぼんだ先から
冬が入りこんで
寒い冬でいっぱいになって
ふくらむ

  今夜はおでんにしますか

しぼむ秋でいっぱいの頭に
おでんという声が聞こえる
今夜はおでん と書き込む
頭のなかは
おでんでいっぱいになる
大根とコンニャクとハンペンと
それから それから
描きかけのりんごの木は
おでんの具でいっぱいになる

  絵描きさんですか
   
突然に声をかけられ
どぎまぎしてしまう
とっさにスケッチブックを閉じる
なんという浅はかさ
会話を聞いていたことの
後ろめたさが心臓の動きを早める

  日暮れが早いですからね

そういいながら
軽く会釈をして通り過ぎる
老夫婦の足音が
落ち葉を踏みしめる足音が
ふわふわに舞う
おでんの材料を見繕う楽しみ
その傍らで熱燗で一杯を思う楽しみ
それぞれの足音は
暮れる日差しの中
楽しげである

----------------------------------
* 2007.11.15 某所投稿済み・・・草

ちょうど一年前のものですが
今はとてもこんなおだやかな気持ちにはなれず
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2008-11-15 22:23 | 投稿詩

休日に

ラジオから
軽音楽が流れている
曲の合間の語りが
さほどじゃまにならない
休日のひととき
ほっとする

机の左側に積まれた
読みかけの本を一冊一冊手に取り
数ページずつ読み進める

詩集を
本棚から取り出す
はさんであった栞が縒れている
一遍の詩を読み返す

ふっと息を吐く
こんな言葉は私には綴れない
と思い
詩集を閉じてしばらくして
さっきの一遍の詩を諳んじてみる
言葉に熱がある
そう感じたのだ

ふたたび縒れた栞をはさんで
本棚に戻した
ベランダの洗濯物は
少しゆったりと揺れている

言葉ってなんだろう
表現するってなんだろう
たとえば
風に揺れる洗濯物のように
自然に逆らわないもの
それでいて
その存在を主張しているもの
そんなものだろうか

私の言葉は
物干し竿にぶらさがっている
そんなものかもしれない
ときには
ゆらりと揺れて
ときには
ぴたりと動かず
あげくの果てに
風に飛ばされて
所在をなくしてしまう

そんなことなど
ぼんやりと考えているうちに
休日の夜となる


-----------------------------------
* 2007.8.20 某所投稿済み・・・草

 ある方のアドバイスにより
 余計な部分と思われるところを
 削除してみたが
 なんとも わからん
 生み出された言葉はいじらないほうがいいと思うが
 やっぱりわからん
 所詮、わたしの言葉は余計なものの寄せ集めだから
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2008-09-20 20:04 | 投稿詩

風の道

トウモロコシ畑を
風が歩いている
ごつごつと固い幹にぶつかりながら

かくれんぼには
ちょうどよい背丈のトウモロコシは
小さな私を隠してくれるのに
そこを風が歩いている
なかなか隠れるところがない
オニがやってくる
急がなくちゃと思う
風が無器用に歩いているので
すぐに見つかってしまうんだ

風の道に迷い込んだらしい
きっとそうだ




---------------------------------
* 2006.8.30 某所投稿済み・・・草
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2008-09-09 21:04 | 投稿詩

夏祭り

夏祭りの夜
皆が上手に金魚をすくって
透明の袋の中に入れてもらい
手に手にそれを持っていて

皆とおなじように
金魚をすくって
透明の袋の中に入れてもらい
手に持ちたいのに

手の中には
祖母からもらった
百円札が握られて
その輪の中に入れない
もどかしい子供

百円札は
夏祭りの匂いと
もどかしさを
しみ込ませ
小さな手のなかで
くしゃくしゃになる


------------------------------------
* 2007.7.9  某所投稿済み・・・草
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2008-09-01 21:29 | 投稿詩

雨粒

いくつかの雨粒が
車のフロントガラスにおちてきた
助手席に乗っている彼女の話を遮って
「雨だよ」
と 言ったのだが
いくつかの雨粒のままで
それっきり増えることはなかった

彼女が話を続けたのかどうかも
覚えていないが
いくつかの雨粒は
確かに彼女の話を遮ってしまった

ほんとうは
その話を遮ったのは
私だった
いくつかの雨粒のせいにしたけれど
その話を続けてほしくなくて
遮ってしまった

その人のことは
それ以上は話したくなかったから


-------------------------------------
* 2007.3.6 某所投稿済み ・・・草
[PR]
by hajimenoippo_1 | 2008-08-28 21:23 | 投稿詩